日本の書の歴史を担ってきたのは、写経だと言って差し支えないと思います。
飛鳥時代から仏教を積極的に取り入れた日本では、経典を写経するために、急速に書が発展しました。
そして奈良時代には国分寺の建立もあって、さらに写経文化が花開いたのです。
今も写経は、心のよりどころとして、癒しの行為として人気です。

写経といえば、多くの場合、楷書で書かれていますが、これは日本に大量の仏教経典が移入されたとき、当時の中国で楷書が全盛であったからです。
写経のお手本には楷書のものが多いですが、隷書や行書、草書の写経にも挑戦してみてはいかがでしょうか?

さて、一般的な写経では、漢字で書かれた経典を、界線という罫線の間に1行17字ずつ、心をこめて書きます。
慣れないうちは、1行17字がなかなかうまく納まりません。納まったとしても、縦長の文字も多く、何となく窮屈で不揃いに見えてしまうことがあります。
そこで1字をやや横広に書く「写経体」というスタイルが確立しました。
「写経体」では、特に横画を細くし、縦画をしっかりと書くことがコツです。

このような写経体を書くには、穂が短くてコシの強い写経専用の筆が便利です。
写経の文字は、側筆(※1)でも筆軸をかなり立てて、鋭い線で書くことが多いです。そのために、写経筆は短鋒(※2)で穂先が尖っていることが求められます。

写経筆 般若心経」は穂先が鋭くまとまり、コシは強いのですが、穂の毛自体にはしなやかさも感じられて、使いやすい写経筆です。

この写経筆は、直筆(※3)でも側筆でも違和感なく運筆できます。
コシが強いのは言うまでもありませんが、穂先は墨を含むと意外なほど柔らかくなり、強い線だけでなく、微妙な柔らかさをもつ線も出してくれます。

穂先から1/3までおろし、やや側筆に構えて、そのままの角度を保って滑らかに運筆する。
これが小さな楷書を書く上で最も簡単な方法です。
但し、半分くらいまでおろした方が抵抗が少ない分、筆は長持ちします。いろいろ試しながらご自分にあった仕様を探してみてください。

写経体では、特に横画の収筆部分に三角形をハッキリつくります。
側筆で運筆し、筆を止めて筆軸を起こすようにして紙から穂を離せば、この三角形が簡単にだせます。

直筆の場合は、いったん筆を浮かせ、書き直します。
漢字は1字の中で、一般に横画の方が多いので、横を細く、縦を太く書くのが基本です。

 

※1
筆をやや寝かせて筆の腹を使って書くこと

※2
穂の短い筆

※3
筆をまっすぐに立てて持って書くこと